これは私の単なる偏見かもしれないが、大まかに言えば日本には二種類のジャズ歌手がいると思う。
一方では「ジャズ・ヴォーカル」という肩書そのものに憧れている人がいるらしい。このタイプは、だいたい、華奢な身体に高そうなドレスをまとい、演奏中は音楽を演っているというよりも、ジャズを単なる装飾品として扱い、あとはモデルのごとくオヤジたちの前で自慢の美貌を披露しているだけのように感じられる。このタイプは真のジャズ好きだと言い難いだろう。また、演奏終了後、共演したミュージシャンたちと一緒に座っていても、どことなく浮いているような存在に見える。
他方では、真のジャズ好きの歌手がいる。彼女たちの場合、声を自分の楽器として考えており、いろいろな(ヴォーカル以外の)ジャズも聴く。これが本物のジャズ歌手だと私は思う。上杉亜希子はまぎれもなくこのタイプであり、私自身はそもそも彼女を「ジャズ・ヴォーカリスト」という特殊な身分の者として見なしておらず、むしろ他のミュージシャンたちと同じような「ジャズ仲間」だと思っている。つまり、彼女は単に歌っているだけでなく、〈音楽を演っている〉、という印象を受ける訳である。声自体は芯があり、表現の幅も広く、それに佐藤允彦氏の創造的かつ挑戦的なアレンジに堂々と挑む姿勢にも、「ジャズ的」と言える冒険心と遊び心が見受けられる。
さらに、「ぶちさん」は演奏が終わってから、先輩ジャズメンの自発的に始まる「駄洒落大会」にも参入して、オヤジたちに絶対に引けを取らないほどの剛腕を見せる。「ジャズ・ヴォーカリスト」だけでは失礼だ。私は彼女をれっきとしたジャズミュージシャンだとばかり思っている。
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